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1.<社説>週のはじめに考える 地方自治こそ国の基礎

20247月7日 東京新聞

 「自治元来是国基」(地方自治こそ国の基礎なり)

 

 明治の元老、山県有朋(やまがたありとも)の言葉です。藩閥、軍閥政治で著名な山県ですが、市制・町村制の導入など、「地方自治制度の父」としても知られています。

 

 松元崇・元内閣府次官の著書、『山縣有朋の挫折−誰がための地方自治改革』によると、山県は、「わが国の伝統的なコミュニティー」を土台に、西欧諸国にならって、地方自治の基盤をつくり上げました。しかし、日本が近代国家へ歩を進めるにつれ、当初の理想からは遠ざかっていきました。

 

 伝統的コミュニティーとは「お上」を頼りにせず、町民や農民らによる自治組織が機能していた江戸期からの庶民の暮らし。その住民自治を基に、山県は「地方」に強い権限を持たせようとしましたが、日清・日露戦争や関東大震災もあり、国が財源も権力も掌握する中央集権体制に変貌します。

 

◆「指示権」拡大への危惧

 

 山県を想起したのは、先の国会で地方自治法が改正され、地方に対する国の「指示権」拡大が盛り込まれたからです。国が「特に必要」と判断すれば、個別法によらずとも地方に指示できるようになったのです。政府は、新型コロナ禍で国と地方の役割分担が混乱したことを理由に挙げましたが、どのような事態に指示権を行使するのか、説明していません。現場からは遠い国が非常時に的確な指示を出せるのか。国と地方を「主従関係」に戻し、地方を「指示待ち」体質にしてしまわないか。改正法の926日施行を控えて懸念は解消されていません。

 

 政治や行政の中央集権的な仕組みが戦後復興や経済繁栄をもたらした面はあるでしょう。一方で地方は疲弊しました。バブル崩壊後の閉塞(へいそく)感を打ち破ろうと提起されたのが「道州制」でした。都道府県をなくし、10前後の道・州に置き換える。国の役割は外交や防衛などに特化し、道州や市町村に権限を移す−。東京一極集中から、個性や多様性に富む拠点が点在する多中心的な国家へ、生まれ変わらせようという発想でした。

 

 地方制度調査会が2006年、「具体的な制度設計を」と答申したことを受け、自公政権は道州制担当相や道州制ビジョン懇談会を設置。09年の政権交代で議論はいったん下火になりましたが、自民党は12年の政権復帰直前に、道州制基本法案をまとめました。

 

◆道州制なぜ立ち消えに

 

 自民の公約は、法制定から5年以内に道州制を実現し、市町村の機能を強化−。今ごろは、とっくに道州制に移行しているはずでした。しかし、法案は国会に提出されることもなく、自民の道州制推進本部は18年に廃止。道州制は最近、話題にも上りません。

 

 何があったのでしょうか。総論は賛成でも、国の機関や税源移譲のあり方などの各論では政党間や自民党内でも意見が割れた。「平成の大合併」の二番煎じを地方が忌避した…。諸説ありますが、有識者らによる道州制ビジョン懇談会の座長を務めた元参院議員の江口克彦さんはこう総括します。

 

 中央集権を脱し、現場に精通した地方に経営を任せ、その自立心や責任感を養い、日本を再び活性化させる−。その趣旨に賛同する超党派の会合には11年の発足時、200人超の衆参議員が出席。地方議員も党派を超えて、関東や東海など各地で政治家連盟を立ち上げた。しかし、道州制への移行が現実味を帯び始めると空気が変わった、と言います。「道州制になれば国会議員も中央官僚も、半分も要らなくなる。そのことが実感として分かると熱が冷め、1人、また1人と消えていった」

 

 道州制はもともと江口さんが秘書として仕えた松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助が唱えた「廃県置州」が端緒。高度経済成長真っ盛りの時代に国の改革を訴えたのです。江口さんは嘆きます。「いまの国のかたちを変えねば、日がまた昇ることはない。このままでは衰退する」

 

 冒頭に挙げた『山縣有朋の挫折』で、著者の松元氏は、絶大な権力を手にする中で変節した山県は理想の地方自治を「見捨てた」と記します。今の政治や官僚機構も似たようなものでしょう。道州制を事実上、葬り、ここに来て、国の地方に対する権限の強化とは。日本の未来を思うのではなく、既得権としての中央集権を墨守しようとする姿勢にしか見えません。

 

 

 

2.経団連が脱炭素へ原発、再エネ活用求める提言 道州制視野の議論も求める

2024年7月19日 産経新聞)

 経団連は19日、長野県軽井沢町で開いた夏季フォーラムで、脱炭素を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)の推進などを柱とした政府への提言をまとめた。脱炭素電源と位置付ける原発や再生可能エネルギーを活用し、安定供給を確保すべきだとした。特に原発は「政府による具体的な方針の明確化は喫緊の課題」と指摘した。

 

 提言では、地域活性化を巡って、少子高齢化に対応するため「新たな道州制も視野に、合併を含む地方自治体単位の見直しについて正面からの議論を求める」とした。

 

 原発の再稼働や新増設、建て替えでは、計画の具体化を急ぐよう要請。また核融合発電など先端技術の開発に着実に取り組むことや、次世代燃料として期待される水素やアンモニアの安定調達の重要性も指摘した。