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1.20年前、すり替えられた道州制構想 政治家は「国のあり方」語れ
(2023年7月22日 朝日新聞)
交論 コロナ後の国のかたち
20年前、地方と国のあり方が変わるチャンスがあった。「道州制」の北海道での先行導入だ。しかし、国によって議論はすり替えられ、幻になった。なぜこの国は変わらないのか。北大公共政策大学院の小磯修二客員教授は、日本の政治家の決断力の欠如だと嘆く。
(聞き手・日浦統)
力示した地方 分権進める好機
――コロナ禍は、地方分権を考える契機になりました。
「長時間、過密な状態で通勤する都市生活を不合理だと感じる人が増えました。ITの発達で地方でできることも増え、中央に集中する仕組みが効率的という考え方も見直されました。感染症対応では、国が全権限をもってコントロールしようとしたが、個別省庁の権益にこだわりすぎました。全てのリーダーがよかったわけではありませんが、任されれば、地方は十分対応できる。分権後の地方に統治能力があることを試す機会になりました。人々の意識が変わってきたいまこそ、分権を進めるチャンスです」
――地方分権がなぜ必要なのですか。
「日本は近代国家になって150年余り。中央集権型の仕組みは欧米に追いつくために必要でした。戦後、憲法で地方自治がうたわれましたが、経済復興は中央主導でした。身近な生活に関わる保健や医療、教育といった政策は次第に目が行き届かなくなっており、人口減時代は一層きめ細かさが求められます。住民との距離が近い行政サービスを担う人々が自らの裁量と権限を持ち、向き合うべきです。しかし社会の隅々まで中央集権型の仕組みが残り、分権が進みません」
――2014年から国は地方創生を打ち出しました。
「出生率の低い東京に若者を集めることが、人口減の負のスパイラルを加速させているという問題提起でした。東京一極集中を是正してバランスのとれた国造りを目指す。その意識が共有されないまま、地方が消滅するというメッセージが注目されてしまった。国のかたちや社会システムを是正するという議論は『政治的に難しい』として、見送られました。20年前と何も変わっていません」
――20年前に何が?
「道州制の議論です。都道府県をブロック単位で区切り、国の権限を移す地方分権のやり方で、当時の小泉純一郎首相が『北海道で道州制を展開したらどうか』と発言しました。私も議論に参加して、北海道が目指す将来像のビジョンを作り、必要な権限の段階的移譲を国に提案しましたが、頓挫しました」
――なぜですか?
「道州制特区という政策手法にすり替わったからです。特区だと将来的に全地域に適用されるから、国は安易に権限を渡しません。小泉首相が想定した道州制とは国の出先機関の権限を道庁に移すぐらいだったのでしょう。06年に道州制特区推進法ができましたが、道が提案するものはほとんど否決され、その流れが続いています」
――地方創世の評価できる点はありませんか。
「市町村が総合戦略を作って、人口減を見すえた政策の議論が進むようになった点は評価できます。道内は、1997年をピークに人口が減り始めたのに、政治家は当初は真剣に向き合いませんでした。人口減だと新しい施設などの『ハコモノ』を作る必要がなくなり、選挙で票につながる政策を打ち出せない。先送りを続けました」
「日本が成熟国家となったいま、地方は足元にあるものの質を高めて、国の発展につなげていくべきです。例えば、観光産業は外からの消費で稼ぐので、モノを輸出して稼ぐのと同じです。ただし、地方だけで人口減でも経済成長するスキームは実現するのは無理な話。国が有効な政策を打ち出してこなかったことこそ、最大の不作為です」
――今後、どう取り組むべきですか。
「地方分権は、国のトップダウンで進めるべきです。中央官僚は必ず反対するからです。民主党政権を含めて、地方分権で日本という国のかたちを変えることを打ち出す政治家は出てきていません。フランスもかつては中央集権的で全ての権限はパリ一極集中でした。しかし、80年代にミッテラン大統領が誕生して分権を進め、いまは18地域圏が経済開発や広域的な地域政策の権限を持っています」
「かつての霞が関のように、長期的な視点で日本の政策を考える官僚も必要です。私もいたことのある旧国土庁は長期的観点から国土総合開発計画をつくり、各省の出向者もそこでの経験を自省に戻ってから政策立案に生かしていました」
「私は首都直下型地震を念頭に東京一極集中の脆弱性を指摘してきました。ポルトガルの首都・リスボンは1755年の大地震を機に衰退の一途をたどりました。人口減の日本がブローバルな世界で生き抜くにはリスク管理が重要です。その意識を地方分権へと広げてほしい」