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1.都道府県を解組し、8地方に統合した「道州制」視野 /いま田中角栄あらば…  小林吉弥  

20225月19日 夕刊フジ

 

◎最大の「国難」は破綻状態にある財政 経済成長には東京一極政治の排除 都道府県を解組し、8地方に統合した「道州制」視野

この国の現在の最大の「国難」は、破綻状態にあると言ってもいい財政である。2021年度末時点での「国の借金」(長期債務)は、実に1000兆円を超えた。国民一人あたり1000万円近い借金を抱えている勘定になる。

対コロナ対策への巨額支出のほか、少子高齢化が拍車をかける中での、医療、介護などの社会保障費の増加で国債発行額が増え、全体を押し上げたことに他ならない。

こうしたことに加え、今後、ロシアによるウクライナ侵攻が終結を向かえた場合、わが国は米国、NATO(北大西洋条約機構)諸国などとともに、戦後のウクライナの復旧、復興へ向けての応分の資金拠出を覚悟しなければならなくなる。

過般の世界銀行の会議では、ウクライナの建物やインフラの直接的被害額に、輸入激減などの間接的影響を加味しての被害額は、同国のGDP(国内総生産)の3倍以上に相当し、実に5600億ドルを超えるとの見方が出た。この戦争が長期にわたった場合は、わが国の応分の負担はさらに過重なものになることは言うまでもない。財政はいよいよ土俵際だということである。

政府は2025年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化させる財政健全化目標を掲げているが、財務省内から「とてもムリ」という声が聞こえてくる。

こうした喫緊の課題を、経済・財政運営に自信を持っていた角栄なら、果たしてどう乗り越えようとしただろうか。

田中は元々、ケインズ経済学を信奉した積極財政論者である。近年の数代のトップリーダーは、口をそろえて経済をまず成長軌道に乗せるべきと唱えるが、この部分では田中は同様である。

ただし、田中が一味違うのは、東京一極集中のみの中央集権政治を排除、真の地方自治の確立の中で、地方経済の成長底上げに全精力をかけてチャレンジしただろうという点である。

かつて田中が首相の座を失脚して間もなく、秘書だった早坂茂三は筆者にこう言ったことがあった。

「オヤジ(田中)さんは、日本列島改造論の一方で、やがては47都道府県の解組、これを8地方ほどに統合しての『道州制』も視野に入れていた」

田中が胸に秘めたとされる、新しい国づくりの「道州制」とは何か。そのメリットは。以下、次回で。 (敬称略)

 

 

2.中央集権から真の地方自治へ、国土の平準化 /いま田中角栄あらば…  小林吉弥  

2022年5月21日 夕刊フジ)

 

◎経済成長には地方の底上げが不可欠も…旧態依然のバラマキ政策でやり過ごす政治家 中央集権から真の地方自治へ、国土の平準化

経済成長を軌道に乗せるには、地方経済の底上げが不可欠というのが、積極財政派・田中角栄の一貫した姿勢であった。

一方で、ここ数代のトップリーダーの経済を含めた地方活性化策は、何ら成功を見せていない。あえて地方創生担当相なるポストまで新設したのに、結局は長年続けてきた都道府県へのチマチマとした旧態依然の交付金、補助金というバラマキ政策でやり過ごしてきた。知恵がなく、税金の無駄遣いという硬直性≠ヘ恐るべきものである。

この国の政治家は、総じて税金が国民の「血税」であるとの認識が低い。公金に対する不祥事は問題外だが、新型コロナでにっちもさっちもいかなくなった生活困窮者が巷にあふれていても、国会議員は「歳費2割返納」でお茶を濁しているのが好例だ。高給取り≠フ議員にとって、歳費の2割削減などは痛くもかゆくもないのである。

そのうえで、この値上げラッシュで庶民が音を上げているのに、なお歳費を「月額100万円しかない」と発言する衆院議長がいるのだから、口が塞がらない。夏の参院選が終われば、向こう3年間は通常の国政選挙の可能性は薄いのだから、このコロナ禍下、「年間300億円超の政党助成金は一時ストップ」が筋だろう。田中なら、そのくらいの決断があったのではと思っている。

さて、前回触れた田中が視野に入れていたとされる「道州制」の設置である。現在の都道府県単位という小さな経済規模では、地方経済の活性化には限界がある。地域を広域化すれば、当然、交付金、補助金の類いは増える。その地域の自治権もおのずと、これまでとは比較にならぬ強さとなる。地域特有の経済発展も可能ということである。この国の現在の最大の「国難」は、破綻状態にあると言ってもいい財政である。2021年度末時点での「国の借金」(長期債務)は、実に1000兆円を超えた。国民一人あたり1000万円近い借金を抱えている勘定になる。

まさに、中央集権から真の地方自治へということでもある。

地域発展の可能性を見れば、若者を中心に東京からのUターン現象が起こり、経済格差是正という国土の平準化が期待できる。だが、そうした国民目線を失った多くの国会議員は、あらゆる目配りから「道州設置法」には目をそむけているのが現実だ。田中が決断すれば、その政治的腕力により、与野党ひっくるめて法案は成立させることができただろう。

いま、少子高齢化が経済の衰退を呼び、今世紀中に「日本はなくなる」との衝撃的な見方さえ出始めている。田中は常々、こう言っていた。

「火事になってから保険をかけてどうするというのだ」 (敬称略)

 

 

3.「道州制」もう一度考えてみてもよいかも:岸田氏が廃止した道州制推進本部

2022年7月21日 岡本 裕明 アゴラ)

道州制というのは長く薄く議論され続けてきた日本の新しい統治形態の案です。定義というほどのものはないのですが、徳島県のホームページにある「一般的には、現在の都道府県を廃止し、複数の都道府県にまたがる、新たな広域自治体として、『道』または『州』を設置するものです」というのがなんとなくつかめる全体像です。

今はこの道州制についてはほとんど盛り上がりません。理由の一つは岸田総理にあるかもしれません。それは岸田氏が自民党政調会長だった時代の2018年に党内の道州制推進本部を廃止させた本人だからです。

私がふと今更ながら道州制と思ったのはいくつかの理由があります。

1.地方の時代と言いながら地方が大きくならず、東京一極集中のスタンスは変わらない。

2.コロナ禍の際に各都道府県と厚労省、専門家などが入り乱れ様々な報道がなされたことで誰が何の権限を持っているのか、非常にわかりにくかったこと

3.官僚が不人気職となり、また若手官僚が続々と退職していることから国家を支える柱そのものがどんどん細くなっていることへの懸念

4.人口減の日本に於いて現状を放置すれば地方はますます超高齢化による疲弊が進むこと

5.大規模災害の際のリスク分散。例えば大震災が起きたとしても一般には日本全土に及ぶわけではなく、特定地域に被害が集中することを考え、事前に都市やインフラなどを分散させることによる対応という発想はあるべき。

6.エリアごとの特性を生かす。なんでも東京が標準仕様を決めるのではないということ

最近私は「民主主義とは何か」という本を読み、民主主義の最も古典的形態である古代アテネの話にふと気づかされた気がしたのです。当時のアテネが生み出したポリス国家は日本にふさわしい統治形態ではないかと考えたのです。ポリス国家は小規模の集団(都市と言えるのか当時の人口数からも疑問だが)である一方、その統治については各地にある広場(アゴラ)で住民の多くが議論を聞き、参加し、民意で決めていたとされます。つまり今でいう「全員参加型」統治方法です。故に「ポリス国家」なのです。

日本は細長い国で気候や文化的特性、歴史的背景などが地域ごとに違います。それを東京というセンターが一元的に管理するというやり方は戦後のように全体が一つに向かっていればよいのですが、現在のように成熟化してくるとこれはうまく機能しません。

また選挙をすれば投票率3割といった地方選もある中で何がそこまで選挙をつまらなくさせているのかといえば結局雲の上の話を一般平民にされてもわけわからん、ということなのでしょう。ならば、国家全体と地域ごとの行政は二段構えにして、地方に権限を大幅に譲渡してもよいのではないかと思うのです。

情報開示が進む社会において一般庶民は様々なことを学びつつあります。その中には「選択する権利」が当然あるべきですが、日本はその選択幅が非常に小さいのです。なぜなら均一化を目指したからです。「日本全国どこでも同じ」。これは確かに聞こえはよいのですが、長所短所を打ち消したような気もします。

もちろん反対派の声も十分知っています。その中である地方が謀反を起こしたらどうするのか、という話があります。しかし、それは極論だと思うのです。アメリカやカナダは州への多大なる権限譲渡があります。その中でどこかの州が独立を目指すとか連邦政府を裏切るというような話は今やほとんど聞きません。かつてカナダのケベック州が独立を問うという動きをして住民投票で本当にきわどい戦いになったのですが、「雨降って地固まる」だったような気がします。

江戸時代、三百諸侯といわれ三百近くに実質的に分割統治されていました。それが廃藩置県で47都道府県になったものの戦後は東京主導の一極集中型になったわけです。今、道州制と思ったのはその揺り戻しとでもいえるのかもしれません。

カナダにいて思うのは例えばインフラに使うお金は地元政府が地元民のために使うという親近感と共に「そんなところに橋を架けても誰も渡らないだろう」といった地域の便益を考えた声も届きやすいのです。一方、連邦政府は国家としての基盤を整備し、国体の維持に集中できるので分業が非常に進んでいます。世界第2位の大きさの国家をわずか3500万人の人口で支えられるのはこの効率性なのだと思います。

日本の社会が今後大きく変質化することを考えるとこういう議論は無くしてはいけないと思っています。

では今日はこのぐらいで。

(岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022721日の記事より転載)