最近の注目情報詳細2021年12〜2022年1月)

 

 

1.【大都市考 制度を問う】<4>道州制

202112月10日 読売新聞・関西)

町村会が反発 しぼむ機運

 自民、公明両党が11月1日、衆院選の勝利を受けて改めて交わした連立合意の文書に、「道州制」の文字はなかった。今の自公体制がスタートした2012年12月の合意文ではあったものが、なぜ消えたのか。

 行政の効率化を主眼に、道州制の検討が政府内で本格的に始まったのは06年2月。首相の諮問機関である地方制度調査会が、当時の小泉首相に答申したことがきっかけだ。

 答申では、国が外交や防衛といった役割を担い、内政は自治体が担当する「新しい政府像」を確立するため、「道州制の導入が適当」とした。全国を9または、11、13のブロックに分ける案も提示し、道州が担う事務として国道の管理や大気汚染防止対策などを挙げた。

 1888年(明治21年)から続く都道府県制度を廃止することで、市町村への大幅な権限移譲にもつながることから、「分権改革のゴール」ともてはやされた。

 時に道府県と対立してきた政令指定都市には、権限や財源を拡大するチャンスとして、好意的な受け止めが広がった。横浜、名古屋、福岡市などは、州から独立し、市と州の機能を併せ持つ「都市州」の創設を相次いで打ち出した。

 「おおむね10年後をめざす」。総務相の有識者会議「道州制ビジョン懇談会」は2008年3月、具体的な導入時期に踏み込む中間報告をまとめた。

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 風向きが変わったのは、09年の民主党への政権交代だ。同党は地方分権自体には前向きだったが、市町村への権限移譲をまず進めるとして懇談会を廃止した。

 全国初の府県連合として10年12月に設立された関西広域連合は、国の出先機関の受け皿になり、道州制へのステップになると期待する声もあった。だが、参加府県内で意見がまとまらず、「そのまま道州に転化するわけではない」との条件付きで発足。国からの権限移譲も進んでいない。

 民主党が12年衆院選で下野し、自民党が政権に復帰すると、道州制議論は再び活発化し、13年には移行手続きを定めた「道州制推進基本法案」の原案がまとまった。待ったをかけたのが、全国町村会だった。「平成の大合併」を経験した町村側は、小規模な市町村では都道府県の権限は引き受けられないとみて、「再び合併を強いられ、地域特性が失われる」と危機感を強め、「州都への集中を招き、地域間格差が広がる」と主張した。

 法案は国会提出が見送られたまま塩漬けとなり、自公の連立合意では14年から「道州制」が盛り込まれなくなった。党総裁の直属機関だった道州制推進本部は18年に廃止。これを主導したのが、当時政調会長だった岸田首相だ。

 自民党関係者は「選挙を考えれば、党の支持基盤になっている町村の声は無視できない」と話す。

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 道州制の導入を求める声は今、自治体からはほとんど聞かれない。

 鳥取県知事と総務相を務めた片山善博・早大教授(地方自治論)は「都道府県合併には抵抗感が根強いため、今はその枠組みを残したまま、広域連合に国の権限や出先機関を移し、道州制と同じような効果を得る方が現実的だ」と指摘しつつ、こう予測する。

 「政府はあらゆる業務を抱え込み、外交や防衛など本来の仕事に専念できていない。このままでいいのかという危機感が強まり、政府のスリム化につながる道州制の議論が再燃する時は必ず来るはずだ」

(清永慶宏、南暁子)

 

◎特区の北海道 28の権限移譲

 議論が下火になった道州制だが、実現に向けた「試行」が続く地域もある。

 政府は2006年12月に成立した道州制特区推進法に基づき、北海道を「道州制特区」と位置づけ、国から道、道から市町村への権限移譲を進めている。

 北海道は海に囲まれた地理的な特性から、道州制が実現しても他府県との合併は想定されておらずモデルにしやすいと判断された。

 道からの要望を基に、28件の権限移譲が実現。▽給水規模に応じて国と道に分かれている水道事業者の監督権限を道に事実上一元化▽国への届け出なく札幌医科大の定員を変更――などがあるが、専門家からは「道州制とは無関係に実現できる項目が多く、制度を導入するメリットを示せていない」との指摘もある。

 

道州制  都道府県を廃止し、広域自治体の道州と基礎自治体の市町村との二層制にする統治機構改革。政府の役割を外交や防衛、通貨などに限定し、国の大半の事務や権限を道州に移譲することで、地域主体の政策立案や行政の効率化を進める狙いがある。現在の都道府県の事務の多くは市町村に移す。

 

 

 

2.「天神ビッグバン」も堅調 インバウンド抜きでも強い九州の「明るさ」

2021年12月20日 マネーポストWEB)

 コロナ禍で外国人の訪日が制限されたことで、かつてインバウンドに沸いていた観光地は大きなダメージを受けている。しかし一方で、福岡をはじめとする九州は驚くほど活気にあふれているという。九州でいったい何が起きているのか、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。

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 私は毎月、企業の経営課題を研究する「向研会」で東京、名古屋、大阪、福岡の経営者と交流している。その中で、いま元気なのは福岡だ。新型コロナウイルス禍で、以前は怒涛の如く押し寄せていたインバウンド(訪日外国人旅行)がなくなって意気消沈しているかと思いきや、驚くほど活気にあふれている。

 その象徴が、商業の中心地・天神エリアで進行中の大規模な再開発プロジェクト「天神ビッグバン」だ。福岡市のホームページによると「国家戦略特区による航空法高さ制限の特例承認や独自の容積率緩和制度などを組み合わせて、耐震性の高い先進的なビルへの建て替えを促進し、アジアの拠点都市としての役割・機能を高めて新たな空間と雇用を創出する」ことを目指している。

 ビルの建て替えは52棟に達し、たとえば9月に竣工した規制緩和第1号案件の天神ビジネスセンターには、通信販売「ジャパネットたかた」を運営するジャパネットホールディングスが東京の主要機能12部門を移したほか、グーグルの開発拠点やNECの九州本部機能、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)など約30社が入居したという。

「天神ビッグバン」の波及効果で、福岡は不動産価格が堅調だ。ビルディンググループの調査によると、オフィスビルの10月の推定成約賃料(1坪あたり)は、名古屋と大阪の13000円台に対し、福岡は15000円台となっている。

 あるいは、開業10周年を迎えたJR博多駅の駅ビル「JR博多シティ」は「博多阪急」を核店舗として2011年のオープンから7年連続で売上高を伸ばし、新型コロナ禍の中でも健闘している。さらに最上階の10階と9階にある会議室は、九州地区の支店長会議などでいつも埋まっている。

 新型コロナ禍で青息吐息の地方都市が多いのに、なぜ福岡は元気なのか? その理由の一つは、経済人の明るさだと思う。たとえば、福岡向研会の会員で麻生セメント会長、九州経済連合会名誉会長の麻生泰氏(麻生太郎元首相の弟)は「福岡に来たら景気の悪い話はしないでください」と言う。福岡向研会は他の会員たちもメンタリティが前向きで、暗い話は耳にしない。

 また、彼らがよく言うのは、高島宗一郎福岡市長と服部誠太郎福岡県知事の存在である。高島市長は地元テレビ局のアナウンサー出身で、2010年に就任した。服部知事は今年4月に就任したばかりだが、中央省庁からの“天下り”だった過去の知事たちと異なり、生え抜きの県職員出身だ。2人とも威張らないし、経済界の要望や提案にすぐ対応してくれるから、連携が取りやすくてビジネスがやりやすいということで、経営者たちの間で評判がすこぶる良いのである。

 

■「シリコンアイランド」復活も

 しかも九州は、福岡だけが元気なわけではない。九州新幹線網と高速道路網の整備により、九州としての一体感が醸成されて相乗効果が生まれてきている。

 たとえば、九州新幹線の博多〜鹿児島中央は最速の「みずほ」なら所要時間はわずか1時間20分ほどだ。来年秋頃には西九州新幹線の武雄温泉〜長崎間が開業する予定である。高速道路網も、東側の大分県と宮崎県の間は途切れているが、ほぼ九州各県がつながり、現在も整備が進んでいる。

 さらなる朗報は、台湾の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)が熊本に工場を建設することだ。これに対して政府が約4000億円の補助金を出す点など疑問はいくつかあるが、地元にとっては雇用が増えて多少なりとも経済が活性化するのは間違いない。

 九州にとって、新型コロナ禍でインバウンドが止まったのは、かえって良かったかもしれない。なぜなら、新型コロナ禍以前は、常に客船2隻で約8000人、バス200台分もの外国観光客が九州各地に殺到して、にっちもさっちもいかなくなっていたからだ。今は世界的な観光地になるための構想をじっくりと練り、アフターコロナ時代に向けた準備を進めるべきだろう。

 以上すべてを考え合わせると、九州は潜在的な総合力で国内ナンバーワンの地域だと私は思う。中国のメガリージョンの代表である深セン・広州とのつながりも深いし、上海や山東半島あたりも漁船が日帰りする距離だ。それは言い換えれば、道州制=クオリティ国家の延長線上にあるメガリージョンの最適モデルだ、ということである。伝統的に強い漁業や農業だけでなく、半導体をはじめとする先端産業と豊かな観光資源の強みを活かして経済発展を実現し、他の地域のお手本になってもらいたい。

※週刊ポスト20211224日号

 

 

 

3.年頭所感  

2022年1月1日 関西経済連合会 会長 松本 正義)

 本年は、「関西ビジョン2030」で掲げた関西のありたき姿の実現に向け、いよいよ「第1期中期計画」を始動させる年となります。

 「地方分権・広域行政」については、関西広域の視点に立ち、道州制実現につながる地方分権改革を働きかけるとともに、関西広域連合のさらなる発展に向けた支援を行います。また、「三方よし・民の力」では、マルチステークホルダー主義に基づく企業経営を広めるべく、「民の力」を企業が効果的に発揮できる仕組みを検討します。これらは当会が長年にわたり取り組んできた、あらゆる活動の底流をなすフィロソフィーと位置づけているテーマであります。