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1.コロナの後の巨大地震に備えて、遷都と道州制が必要だ!
(2021年1月19日 BOOKウォッチ)
本書『「首都感染」後の日本』(宝島社新書)のタイトルを見て、多くの人は新型コロナウイルスが首都圏で爆発的に流行した後の日本はどうなっているのか、について書かれた本だと思うだろう。しかし、タイトルに偽りがある訳ではないが、そうではない。本書は、コロナ後に必ず来る東京直下型地震、南海トラフ地震などの巨大災害への備えを訴えた本だ。
著者は2010年に近未来小説『首都感染』(講談社)を書いた作家の高嶋哲夫さん。高嶋さんは日本原子力研究所研究員などの経歴があり、1979年には日本原子力学会技術賞を受賞している元エンジニア。『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞を受賞している。
■予言の書としてコロナ後に増刷
『首都感染』は、20XX年、中国のへき地で致死率60%の強毒性インフルエンザが発生し、ちょうど中国でサッカーW杯が開かれ、世界中から集まっていたサポーターがウイルスと共に帰国し、パンデミックが発生、そのとき日本は......という内容だ。
発売から10年で3万数千部だった部数は、コロナ後に「予言の書」と注目され、数カ月で14万部が増刷された。小説では非常に毒性の強いウイルスという設定だが、現実の致死率はそこまで高くはない。高嶋さんは「恐れるな、しかし侮るな」と冷静に科学的な判断に基づいて行動するよう訴えている。
今回のコロナ禍で明らかになったのは、貧弱な日本の危機管理能力、IT後進性、「東京目線」のコロナ対策とその限界だったとし、いずれ起こるとされている東京直下型地震、南海トラフ地震の被害を最小限に抑えるための方策を提言している。
■首都移転と道州制をセットで
高嶋さんは2014年に『首都崩壊』(幻冬舎文庫)という本を書き、「東京一極集中」から脱却するため、首都移転について問題提起した。
昨年(2020年)の緊急事態宣言と今回の緊急事態宣言にはあまり強い強制力はない。しかし、仮に欧米のようなロックダウンが首都圏に発令されれば、首都圏だけではなく日本全体が麻痺し、大きな経済的損失が発生するだろう。
東京直下型地震、南海トラフ地震が首都圏を直撃すれば、実質的にそうした事態も起こり得る。それを回避するには、首都移転と道州制をセットで行い、「新しい日本の形」を造るしかない、というのが高嶋さんの主張だ。
本書では、これまでの政府機関の地方移転をめぐる経緯を以下のようにまとめている。
1950年代 学会などを中心に首都機能移転を求める提案が出始める
88年 東京23区内にある約70の政府機関の移転を閣議決定
90年 衆参両院が国会などの移転を決議
92年 国会等移転法が成立
99年 政府審議会が「栃木・福島」、「岐阜・愛知」、「三重・畿央」の3地域を候補地として答申
2003年 衆参両院の特別委員会が候補地絞り込みを断念
06年 首都機能移転担当相のポストが道州制担当相に変更
これを見ると、80年代に社会問題になっていた東京を中心とする地価高騰の鎮静化も期待できるとして遷都論が浮上したが、候補地の絞り込みすらできず、世論も盛り上がらなかった。また、バブル崩壊による財政問題も深刻化し、国会の移転は事実上、立ち消えになった。
本書には書かれていないが、第三次安倍内閣の主要政策「地方創生」の目玉として、いくつかの省庁の移転案が急浮上、その結果文化庁が2022年度以降に京都市に移転することになった。
「首都移転」と言っても、現実的な政治的課題になっていないことは明らかである。
高嶋さんは『首都崩壊』で、岡山県の吉備高原を新首都の候補にしていた。・自然災害が少ない・位置的に日本の中ほどにあり、交通の便がよい・十分な土地がある、などを理由に挙げていた。本書では、吉備高原を候補地とまで書いてはいないが、以下のような思いがある。
「実際に遷都を目指すとなれば、多くの高いハードルがありますが、具体的な候補地を掲げないことには、議論が進まないのも事実です」
高嶋さんは、「コロナで分かったことのひとつは、日本は狭いようで広かったということです。感染状況の格差が、如実にそれを示しています。地震と津波で太平洋岸が大きな被害を受けても、日本海側、あるいは内陸に人口と企業が分散していれば、被害を受けた地域を支えることができます」として、47都道府県という小さな経済単位ではなく、1道7州に近隣の県がまとまって、自立できる地域を作ることを提案している。
コロナはいずれ収束するだろう。しかし、科学的知見から必ず発生が予想される巨大地震。政府が動かなければ、企業が先導することもあり得る。日本がこのままでいいのか、クライシス小説の第一人者が、小説ではなく「提言」として書いた内容は示唆に富む。
(BOOKウォッチ編集部)
2.道州制特区延長 政治主導で権限移譲を
(2021年2月2日 北海道新聞)
政府は、国の権限を道に移譲する道州制特区について、本年度末までだった計画期間を2025年度末まで5年間延長する方針だ。新たな権限が移譲される可能性が出てきたと受け止めたい。
道州制特区推進法に基づくこれまでの権限移譲は停滞している。歴代の政府・与党は分権推進への姿勢を鮮明にせず、自治体を監督下に置きたい中央省庁側の抵抗を傍観してきたと言えよう。
計画期間の延長を機に、政治主導で、道への権限と財源の移譲を拡充していくべきだ。
道は14年度を最後に権限移譲の提案をしていない。分権を後押しする法律を駆使しない姿勢は、道民の理解を得られまい。官僚に屈せず、北海道に必要な権限を求めていく気概が欠かせない。
道州制特区は地方分権の推進を目指し、07年度に当時の安倍晋三首相が導入した。住民に身近な自治体に権限と財源を移譲するのが分権の原則だ。
政府は当初、07年度から3年間で道への権限移譲を100以上に拡大する構想を描いていた。だが実際には道が提案した計33項目のうち、特区として認められたのは2項目にすぎない。
それは、札幌医大の定員変更と、給水人口5万人以上の水道事業の監督で、多くの道民が分権を実感できる内容とは言えまい。
これまで却下された提案の中には、今も北海道にとって必要なものが含まれていよう。例えば、国内旅行者向けの特定免税店の創設や、観光関連施設の税制優遇措置は産業育成に有効ではないか。
地域の事情に精通した道の判断で権限を行使できれば、新規事業者への対応も迅速になる。問題が発生した際にも、機敏な対処が可能だ。再考に値しよう。
中央省庁が権限を手放すことを嫌うのは、財源の移譲にも結びつくためだ。官僚の強い抵抗を排するには、政治主導が不可欠なのは言うまでもなかろう。
12年に政権に返り咲いた安倍前首相が打ち出した地方対策は、「地方創生」戦略だった。それは権限移譲ではなく、交付金を通じた自治体への財政支援である。
地方を支える視点はいいが、手法は中央集権的であり、地域の自立を後押しする分権に逆行する姿勢は明らかだった。
菅義偉首相は総務相経験者であり、地方分権の重要性は認識しているはずだ。政府の先頭に立って今の流れを断ち切り、指導力を示してもらいたい。
3.北海道対象の道州制特区、5年間延長を決定
(2021年2月5日 産経新聞)
政府は5日、道州制特区推進法に基づく基本計画について、令和7年度末まで5年間延長することを閣議決定した。延長は3回目。延長するのは「特別広域区域」の北海道の事務事業移譲などの措置で、坂本哲志地方創生担当相は「今後も、フォローアップを行うとともに、北海道とも連携を図りながら取り組みを進めていく」と述べた。
坂本氏は、北海道開発に関わる直轄事業4件を国から北海道へ移譲したことを挙げ、「成果は重ねてきている」と強調。ただ、観光施設の免税措置に関しては「他の自治体から要望があればまたそれを認可しないとならず、難しいところだ」と語った。
道州制特区推進法は平成18年に地方分権改革の一環として成立。3つ以上の都府県で構成される「特定広域団体」を道州制導入へ向けた特区として認定し、国からの権限移譲を進める。北海道は単独で特定広域団体に認定しており、国が建設する高規格幹線道路との一体的な道路網整備などを進めている。