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1.明治維新から150年、「都道府県」がそろそろ終わる? 人口減少時代の未来地図
(2019年12月13日 ダ・ヴィンチニュース )
私たちが小学校で学びすっかり慣れ親しんできた「47都道府県」という日本の枠組みが、この先劇的に変わるかもしれない。『この国のたたみ方』(佐々木信夫/新潮社)には、読み手にとってそう思わせるだけの説得力ある知見と情報がつまっている。
書名にある「たたむ(畳む)」という表現は、「ダメだからおしまいにする」という意味合いではなく、やるべきことを見極めてムダを削減し、洗練された未来を目指そうというニュアンスで使われているようだ。東京都庁に16年間勤めた後に大学で約30年教鞭をとってきた著者は、都道府県制が「人口減少の時代」に合わなくなってきた理由や、新たな枠組みの理想形について、具体的な事例をあげながら紹介する。
■「都道府県制」では社会の変化に追いつけない
都道府県という枠組みは約130年間、交通手段が徒歩や馬のみだった時代からほとんど変わっていないという。この旧時代的な制度の特徴を、「広げすぎた大風呂敷」と著者は表現する。これは経済が成長し続け、人口が増えていくという前提がベースにあり、結果として東京一極集中が進んできた。だが、人口減少にさしかかった現代においてこのままの枠組みで物事が進むと、どのような無理が生じるのだろうか?
“人口の減少で県紙や地方テレビ局は経営が厳しくなり、地銀など地方金融機関でも県域を越えた再編が進展しています。あと10年もすると全国の80%に当たる38都道府県で、域内の生産力では需要を賄いきれなくなるとされ、自宅周辺のスーパーや美容院、金融機関が無くなる可能性もあります。”
著者は「県をたたむ」ことが必須だと読者に訴える。もちろんそれは制度的にも心情的にも容易なことではないが、施策のひとつとしてあげられているのが、「都道府県」と「市町村」という二層制をシンプルにまとめ、「市町村+州」の単位にとらえ直すことだ。
筆者は数年前に東京都から福岡県に移住し、現在は福岡市に住んでいる。東京や他県の人から「いま福岡は勢いがあるみたいですね」といわれることが時々あるが、こういうときの“福岡”は、大抵の場合、福岡県ではなく福岡市のことだ。筆者も福岡市の成長や人口増加を魅力のひとつと捉えて移住したひとりだが、実際のところ県内の他の市町村は深刻な少子高齢化や人口減少の問題を抱えている。都市圏の北九州市ですらも転出数が転入数を上回る「社会減」が5年連続でワーストになっているということを、後で知った。
■日本を「州」に再編することのメリットとは?
こうした極端な状況差を是正するカギが、「道州制の導入」にあると著者は述べる。本書には、「北海道、東北、北陸、北関東、東京都市州、南関東、東海、大阪都市州、関西、中国、四国、九州、沖縄」というブロックの図示と、各道州の特徴も記載されている。たとえば、北海道については、地政学的な有利さと景観・風土の良さをいかして、新千歳空港をハブ空港化して観光を推進し、さらにロシアのサハリンまでを経済圏に含めることが唱えられている。
“海外からの出入国管理は国の管轄ですが、北海道の外に出ないかぎりビザの取得は不要とすれば、外国人観光客はさらに増える。北海道とサハリン(樺太)は一体化した観光地域とみられるようになり、北方領土問題は未解決とはいえ、千島列島全体との行き来も容易になれば実質上国境の壁がなくなったのに近い状況をつくれるのではないでしょうか。”
祖父母のそのまた親世代ほどの時代から慣れ親しんできたルールに別れを告げるのは、いくらかの名残惜しさがある。しかし、枠組みを変えたからといって地名や土地の記憶が瞬時になくなるわけではない。本書では豊富な事例や具体的な理想像がわかりやすく描写されており、廃藩置県ならぬ、「廃県置州」もありかもと思わせてくれる1冊だ。
文=神保慶政