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1.【鈴木哲夫】大阪ダブル選、維新コンビが圧勝した理由と

             「それでも消えない不安」 今後も政争が繰り返されるのか?

2019年4月8日 現代ビジネス)

○大阪の未来は、これで変わるのか

 

大阪府知事だった松井一郎氏が大阪市長選に、大阪市長だった吉村洋文氏が大阪府知事選に出馬するーーそんな異例の「ダブル選挙」そして「クロス選挙」として注目を集めた、大阪府知事・市長選挙が47日、投開票された。

蓋を開けてみれば、結果は松井・吉村両氏の圧勝。自民党・公明党、共産党は陣営の違いを超えて足並みをそろえ、大阪維新の会の勢いを止めようとしたが、力及ばなかった。結党から9年、大阪における維新支持の底堅さが証明された。

ただおそらく、関西以外に住む読者にとっては、今回の選挙に関して「そもそも、なぜ府知事と市長のダブル選となったのか」「大阪都構想との絡みはどうなっているのか」といった、根本の部分からして「今ひとつよくわからない」というのが本音ではないだろうか。

そこで本稿では、今回の大阪における選挙がいったいどのような経緯で戦われたか、そして大阪の未来にどのような影響を与えるのかについて、現場で筆者が得た情報を総合しつつ解説したい。

 

○ダブル選を招いた「維新・公明のバーター」

 

松井氏と吉村氏の任期満了は、本来であればそれぞれ今年の11月と12月だった。府知事と市長のポストをいったん辞し、府議選・市議選が行われるこの4月の統一地方選に合わせて選挙を行い、両者が入れ替わる形で出馬すると正式に表明したのが3月上旬のことだ。

大阪維新の会は、今回の選挙を「大阪都構想への再チャレンジ」を大義に掲げて戦った。松井・吉村両氏の辞職と出馬は、都構想という旗印を明確にするとともに、大阪府民・市民に維新の政治の「信を問う」という、国政でいうところの解散総選挙的な色合いをもつものだったといえる。

そもそも大阪都構想は、20155月に大阪市で行われた住民投票において否決され、一度廃案となった政策である。松井氏と吉村氏は、同年11月に行われた府知事選と市長選において、その復活と住民投票の再実施を目玉として掲げ、当選した経緯がある。

住民投票の再実施には、府議会と大阪市議会の双方で過半数の賛成を得なければならない。ところが、大阪維新の会は前回の府議選・市議選で、ともに単独過半数の議席を確保できていなかった。

そこで、彼らが目をつけたのが公明党である。押さえておかねばならないのは、国政選挙との兼ね合いだ。

衆議院の大阪選挙区の現職議員を見ると、公明党が現在4議席を占めている。周知の通り、衆院選において比例区を主戦場とする公明党にとって、この4選挙区は貴重である。公明党の内部では「常勝関西」と呼び習わされているが、その本丸である大阪は長年彼らの牙城であり続けてきた。

しかし維新の勢力が大阪に根付き始めたことによって、その「常勝」の構図にも陰りが見えるようになった。維新の側が、「衆院選で公明党候補に対する『刺客』を擁立するかしないかが、公明党との強力な交渉材料になる」と考えるのは必然だ。

そこで維新は、公明党に「次の総選挙では対抗馬を立てないから、その代わりに大阪都構想の実現に協力してくれないか」と持ちかけた。維新に加えて公明党が都構想賛成に回れば、府議会・市議会で過半数を確保し、住民投票を再び実施できるようになる。公明党はこの申し出をいったん飲み、両者は2019年末までに住民投票を行う方針で、昨年春には合意文書までまとめていた。

とはいえ、次回の衆院選の際に維新の党勢がどうなっているかなど、本質的には予測がつかない。「選挙をバーターの材料にするのは、リスクが大きい」との声も公明党内部には根強かった。また、そもそも公明党が、それまで都構想に党として強硬に反対していたことも、一層の混乱を招くことになった。

結局、公明党内部はまとまり切らず、住民投票実施の期日確定を迫る維新に対して、態度を曖昧にし続けた。そして昨年12月、煮え切らない公明党に、ついに維新側が激怒。松井氏が記者会見を開いて合意文書を公開し、「約束が違う」とぶちまける展開となった。

つまり、今回のダブル選挙が勃発した背後には、都構想と衆院の議席をバーターするという、維新・公明の間の政局があったわけだ。

 

○なぜ松井・吉村は勝ったのか

 

このようなゴタゴタを目の当たりにしてきた大阪の有権者には、3月に松井・吉村両氏が辞任した当初、「いったい何のためのクロス選なのか?」と疑問を抱く人も多かった。選挙戦の序盤で行われた世論調査で、自民党の大阪市長候補・柳本顕氏がリードを見せていたのも、そうした疑念を反映してのことだっただろう。

しかし、投開票日が近づくにつれて維新が徐々に盛り返し、結果としてその支持の底堅さを見せつける展開となった。維新の主な勝因は、やはり依然として、彼らが若年層と無党派層からの根強い人気を確保していたことだと考えられる。

あくまで結果論ではあるが、この数年間で景気が上向いたことの恩恵は大阪にも及んでいる。加えて子育て支援の拡充、また公務員の人員削減などの行政改革といったわかりやすい政策も、2008年の橋下徹氏の大阪府知事当選以来、維新系勢力が11年にわたって大阪政治を担う中で、多少なりとも進みつつあるといえる。

「維新のおかげで、なんとなくよくなっている」という感覚が、その本当の理由はさておき、大阪の若年層・無党派層の間では広がっているのである。

選挙のテクニックという面から言っても、結果的には府知事と市長の辞職・再出馬が効いたといえる。「都構想実現をかけた戦い」であることを両者が首を賭けてアピールし、イシューを絞ったことで、維新が得意とする「改革派 vs. 抵抗勢力」の構図を作り出し、戦いを有利に運ぶことができたからだ。

 

○結局、無意味な選挙だった?

 

しかし再三述べてきた通り、今回の選挙で真に大阪の未来を左右するのは、実は首長選挙ではなく、都構想に向けた住民投票の成否を握る府議会・市議会選挙だった。

今回、維新は両議会選挙で過半数の候補者を立てたものの、準備不足が否めなかった。一人区が多い府議選については、一騎打ちを得意とする維新が有利に戦ったが、中選挙区制の市議選では苦戦。選挙戦でも、市長選に出馬した松井氏のみならず、府知事選に出るはずの吉村氏まで、ほとんど大阪市内だけで活動していたほどだ。

最終的に、維新は大阪府議会では大きく議席を伸ばしたものの、大阪市議会で過半数を確保できなかった。つまり、都構想実現のためには、今後再び他党の協力を取り付けなければならないということだ。

そのとき自民党や共産党が交渉先として浮上することは、まずあり得ない。結局のところ、また公明党との協力を模索することになるだろう。そうだとすれば、維新が「公明党の協力を得ずに都構想への道を開く」ことを目指して行ったはずの今回の「ダブル・クロス選挙」が、いったい何のためのものだったのかわからなくなってしまう。

 

橋下氏は、今年1月にテレビ番組に出演した際、「(次の衆議院総選挙で)公明党の選挙区に(維新から)2人が出て倒しに行く」との観測を披露している。しかし、再び維新と公明の政争が繰り返されるとすれば、振り回されるのは大阪の有権者であることを指摘しておきたい。

一方で、最後に少し私見を述べれば、都構想や道州制をはじめ、維新が掲げるような地方自治改革や見直しの動きそのものは、令和の時代に日本という国の構造が大きく変わる中で、これから全国的にも議論する必要が出てくるだろう。

東京のマスコミには、大阪都構想を「ローカルな話題にすぎない」と過小評価する向きもあるが、実は大阪のおかれた状況は、全国の他の自治体にとってもひとつの先例になる可能性が十分にある。今回の選挙を「コップの中の争い」と看過するのは早計である。

 

 

2.「大阪都構想」に村井・宮城知事が関心

2019年4月9日 産経新聞/宮城)

 大阪府知事・大阪市長ダブル選で、「大阪都構想」を掲げる地域政党「大阪維新の会」の吉村洋文・前大阪市長、松井一郎・前府知事が勝利したことに関し、村井嘉浩知事は8日の定例会見で、「大阪都構想については大阪府民が決めること」とした上で、「行政の無駄をなくして小さな自治体、国づくりをするべきだという考えは私も一致している。大阪都構想が道州制への一里塚であるなら、私は必要なことではないかと思う」との考えを述べた。

 また、村井知事が発起人となった「道州制推進知事・指定都市市長連合」に、松井氏も加入していたと言及、「そういった意味からも大阪都構想には強い関心を持っている」と語った。

 

 

3.大阪都構想は新しい時代の維新 二重構造解消で大阪全体を大きな都市へ

  (2019年4月16日 ニッポン放送)

ニッポン放送「飯田浩司の OK! Cozy up!」(416日放送)にジャーナリストの有本香が出演。大阪都構想について解説した。

 

○大阪都構想の行方

 

都構想を看板に掲げて、47日の大阪W選挙を制した大阪維新の会の松井一郎大阪市長と、吉村洋文大阪府知事。この都構想の行方は、地方自治全体にも波及して行くとみられる。

 

飯田)選挙が終わった直後も、そんな質問が会見で出ていました。大阪としてはこうやって行くのだというところをまず吉村、松井両氏はアピールしていましたが、有本さんに詳しく解説をいただきます。

有本)大阪都構想は、とにかく分かりにくいと言われていますよね。

飯田)みんなそうやって批判していました。

有本)私も数年前は、大阪での民放局のニュース番組に出ていましたけれど、やはり当時も各局でこれは何なのかということをやりました。

飯田)最初の住民投票の時期ですね。

有本)これは各論の部分を変に詳しく砕いてしまうから、逆に全体が分からないのですよ。この問題は実は大阪だけのものではなく、日本の地方自治が抱えている構造的な問題で、特に強大な政令指定都市がある府県にはついてまわっている問題です。ですから、例えば神奈川県と横浜市、あるいは愛知県と名古屋市とか、どこも同じ問題を抱えているのですよね。

飯田)福岡や埼玉や千葉、首都圏の都道府県は皆抱えている感じがしますね。

 

○政令指定都市は「中二階」〜戦後の妥協の産物

 

有本)いちばん顕著なのが横浜なのですけれども、これをある人が中二階だと。

飯田)中二階?

有本)政令指定都市とは、戦後の妥協の産物なのですよ。戦後の占領時代に、GHQが特別市を日本で5つ作ろうとした。この特別市というものは世界中にありますが、非常に強い権限を持った都市です。しかし当時、地元などでなかなか理解が得られなくて、妥協して中二階を作ってしまった。

要するに普通の市が1階だとすると、府県はその上にある2階です。その間の非常に中途半端なものという意味です。権限が強いとは言われますが、とても中途半端な権限だから、両方にとって邪魔になってしまう。特にいまのような時代だと、広域で行政を考える必要が出て来る。

例えば住民サービスは住民の身近なところにあればいいので、基礎自治体がそれをやるのですが、東京であれば区や市町村ですよね。それ以外の、例えばインフラ整備のようなことになると広域的な視点が必要なわけです。でも府とか県のなかに、そういった特殊な権限をもった政令指定都市があると、そこがウンと言わなければ広域で考えたインフラ計画が進まないこともあり得る。ですから、政令指定都市という中二階をそろそろ何とかすべきではないかと言われて、すでに10年以上経つのですよ。

 

○多くの利害と絡む問題〜国会やマスメディアも大きな視点で取り上げるべき

 

有本)二重行政となる中二階を何とかしようと、議論を前に進めたいがために「大阪都構想」とネーミングしたのです。実は太田大阪府知事の時代からこの二重行政解消は課題になっていたのですが、一向に進まなかった。そして橋下さんの時代にこういう名前がついたのです。しかし、大阪都構想という名前に変なインパクトがあって、誤解を招いてしまったところがあると思う。

それとは別の話として、横浜などは逆に、中二階から自分たちは二階に行きたいと言っています。

飯田)神奈川県とは別に、もう1つ県のようなものをつくる。

有本)そうです。県ぐらいの、特別市という権限の強いところに自分たちは行きたいと言っているのですよ。

飯田)かつての構想にいちばん近い形にしようとしている。

有本)大阪は都構想で大阪市を解体して、大阪全体を大きな都市として考えようとしています。名古屋と愛知県も中京都構想みたいなことを考えていました。要するにこれは、「地方自治の枠組みをそろそろ見直しませんか」という動きなのですよ。ところが、これが多くの人の利害と絡んでしまう。例えばいままで政令指定都市の市議会議員だった人たちが、東京の区議会議員さんと同じような処遇になってしまうのですよ。

飯田)予算は当然縮小しますよね。

有本)しかも自分たちが扱う案件が全部、住民サービスの案件だけになってしまうわけでしょう。そういう点でも大勢の利害が複雑に絡み合うために、本当の目的は何ですかという核心の所ではなく、入り口のところで揉め続けているという実態なのですね。

飯田)ミクロな11個の視点で揉めてしまう。

有本)だから、住民から見るとひたすら分かりにくい話になってしまう。本来は国会やマスメディアも、もっと大きな視点で取り上げて議論すべきだと思います。いまは政令指定都市と府県の関係だけですけれども、この府県という枠組みも、廃藩置県からほぼずっと見直しができていないのだから、これはこれでいいのかという部分もありますよね。

 

○時代や生活に合わせた議論をするべき

 

飯田)それこそ100万人に満たない県もあれば、何千万人という都道府県もある。一言で都道府県と言っても格差があるし、そうなるともっと大きく道州制にするべきなのかという話にもなりますね。

有本)そういう議論をすべきだと思います。だって廃藩置県の頃は、人は歩いて生活をしていたのですよ。いまと移動距離がまったく違うではないですか。そういう点でも大きな議論をすべきだと思いますね。その機会を、大阪都構想をもう1度盛り上げることで全国に波及させるというのであれば、ある意味で新しい時代の維新ですよね。

飯田)やっぱり地元から上がって来ると。

有本)ボトムアップで変えて行くということですよね。それからもう1つ、ダブルクロス選挙の期間中に吉村大阪府知事が「公明党を叩き潰す」みたいなことを言っていました。公明党の関係者には聞きづらい言葉だったかもしれませんが、要するに自公連立は当たり前になっているけれども、果たしてそれでいいのか。日本の政治をダイナミックに動かして行くために、いままでそういう枠組みだけで政治が動いて来ていることにも、一石を投じるきっかけになれば面白いなと思いますね。