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(2018年5月4日 日本経済新聞/社説)
2030年にはすべての都道府県の人口が減少に転じる。国立社会保障・人口問題研究所が公表した地域別の将来推計人口だ。なかでも地方は厳しい。
15年には102万人だったが、30年には81万人に減り、その15年後には60万人になる。秋田県の人口である。しかも、県民の半分は高齢者が占める。少子化対策に力を入れ、東京への過度な集中を抑えることは必要だが、それでも地方の人口は減り続ける。
街を縮める努力を
道路や下水道のようなインフラや公共施設の老朽化も深刻だ。道路橋だけをみても30年には全体の6割が建設から50年を超す。
仮に新規の整備をやめ、自治体の公共事業予算をすべて更新費に振り向けても、膨大な社会資本全体を維持することはもはや難しい。残すインフラや施設を選別するしかない。
地域に不可欠な機能も縮小していく。公立の小中学校や高校はすでに毎年、500校程度消えている。大学の再編も広がる。高等教育の場を失えば、地方からさらに人材が流出しかねない。
今、すべきことは30年以降の姿を直視し、人口減に適合する社会に変えることだろう。
まず、コンパクトな街に再編する必要がある。このまま人口密度が低下すれば、生活に欠かせない店や施設の撤退が避けられない。訪問介護のようなサービス業の生産性を上げるためにも不可欠だ。
車を運転できない高齢者が増えれば、今のような車に依存した都市構造では行き詰まる。30年ごろには住宅の3戸に1戸は空き家になるという推計もあるから、郊外開発はもう抑えるべきだろう。自動運転などの新技術をうまく取り込むことも重要だ。
次に自治制度の見直しが要る。個々の市町村がすべての行政サービスを単独で手掛けるフルセット主義は限界に達している。総務省の研究会は地域の将来像を踏まえて「都道府県と市町村の二層制を柔軟にする」ことを求めている。
すでに動きは出ている。香川県では4月、県内16市町の水道事業を県も加わって1つに統合した。従来のままでは非効率で専門職員の確保も難しいためだ。行政分野ごとに市町村間の連携や、県と市町村の機能統合を探るべきだ。
都道府県の再編も検討課題だ。急速な人口減に苦しむ秋田県の佐竹敬久知事は「早晩、現在の都道府県の枠組み(の見直し)も議論に上る」と予想する。国の出先機関の業務まで統合するなら道州制への移行も視野に入る。
将来の厳しい現実に向き合うためには政治のありようも変える必要がある。「シルバー民主主義」の問題だ。政治家が選挙に勝つために高齢者の利益を優先して世代間の不公平が生じるというものだ。では世代間格差を解消するためにはどうしたらいいのか。
ひとつがドメイン投票法だ。投票権を持たない子どもの分を親が代理で投票する。2人の子どもを持つ夫婦はそれぞれ自分の1票とあわせて2票を行使する。1人なら両親が0.5票ずつになる。
米国の人口学者のポール・ドメイン氏が提唱したものだ。親ならばだれでも子どもの将来を考える。親を通じて将来世代の頭数を増やすのがねらいだ。
脱シルバー民主主義へ
世代別選挙区制という考え方もある。井堀利宏・東大名誉教授らが提唱したもので、有権者の人口構成比に応じて世代の代表を国会に送り込む制度だ。
18歳〜30歳代を青年区、40歳〜50歳代を壮年区、60歳以上を老年区として議員定数は人口比に応じて定める。これだと高齢化で老年区の定数が厚くなるのが避けられないため、各世代選挙区の定数を同数にする方法も考えられる。
3つ目は平均余命投票制だ。小黒一正・法政大教授らが提唱している。平均余命でウエートをつけるもので、たとえば20歳の男性の余命が60年で、60歳の余命が20年なら、20歳の票に3倍の重みを与える。若者の声を政治の場により強く反映させるのが目的だ。
こうした制度改正のために憲法改正が必要ならば、国会での改憲論議のテーマにするのも一案だ。
01年の中央省庁の再編で経済企画庁などがなくなり、中長期の経済計画や国土計画が軽んじられている。持続的な経済社会を見通すビジョンと課題を国や自治体がまず明確にすることが、30年への挑戦を可能にするのだろう。