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1.「自民党こそリベラルで革新的」——20代の「保守・リベラル」観はこんなに変わってきている
(2017年10月31日 Business
Insider Japan・室橋祐貴)
若者は本当に「保守化」しているのか。若者の自民党支持率は高く、今回の衆院選でも、18〜19歳の47%、20代の49%(ANN調べ)が比例で自民党に投票したという出口調査結果も出ており、こうした結果から若者が「保守化」しているとも言われる。
一方、実際に若者の声を聞くと従来のイデオロギー観とは全く違った政党観が見えてくる。
読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所が2017年7月3日〜8月7日に共同で行った調査結果によると、40代以下は自民党と日本維新の会を「リベラル」な政党だと捉えており、共産党や公明党を「保守的」な政党だと捉えているという。
対して、50代以上は、従来のように、自民党や日本維新の会を「保守」と捉え、共産党を「リベラル」だと捉えるなど、大きな「断層」が生じている。
特に、若い世代ほど自民党を「リベラル」だと感じる傾向が強く、18〜29歳が唯一民進党よりも自民党の方を「リベラル」だと見ている。
○「改革」を強調する自民と維新
なぜ、自民党を「リベラル」だと思うのか。
話を聞いた若者が共通して挙げたのは、「自民や維新こそ革新的」だという点。
「安倍政権の経済政策(アベノミクス)や憲法改正、積極外交、内閣人事局の設置などは今までになく、維新の大阪都構想や地方分権(道州制)など、どちらも改革志向にある。一方、その抵抗勢力である民進党や社民・共産党はリベラルとは逆のところにいると思う」(首都圏の国立大学院2年、24)
特に10代や20代前半にとっては政権末期の民主党や、民主党政権時代の「自民党=野党」のイメージが強く、「改革派」の自民党、「抵抗勢力」の野党(民進党、共産党)という構図で捉えているようだ。
都内の国立大2年の男子学生(20)はこう語る。
「自民党は働き方改革やデフレ脱却など、抜本的ではなくとも、悪かった日本の景気や雇用状況を改革しようとしているように見える」
実際、2018年卒の大学生・大学院生の就職内定率(10月1日時点、ディスコ調べ)が92.7%と調査を始めた2005年以降過去最高になり、日経平均株価は約21年ぶりの高値となるなど、数値的にも良い結果が出ている。こうした数字は10代や20代にもSNSなどで目に入っており、成果を出している印象を受けやすい。
他方、野党は改革の方向を争う相手ではなく、「現状肯定派」に見えている。
「野党はアベノミクスに変わる経済政策の具体策を提示できておらず、単に自民党政権の政策を中止しろと言っているだけ。年功序列とか前時代的な給与・労働体系を守ろうとする現状肯定派であり、旧来の枠組みから脱出することのない保守的なものに映る」(前出の国立大生)
小学校高学年に自民党の政権復帰を体験した中学3年の男子学生(15)は、「共産党や民進党は政権批判ばかりしていて、共産主義も過去の時代遅れの思想で古いイメージが強い。自民党は新しい経済政策で株高などを実現させており、憲法改正も含めて改革的なものを感じる」と話す。
実際、各党の衆院選公約を見ると、維新と自民党が最も「改革」という言葉を使っており、自民党が政権を奪還した2012年の衆院選公約の29回、2014年衆院選の34回、2017年の40回とその使用頻度も増加傾向にある。
他方、今回選挙の公約を見ると、希望の党は17回、立憲民主党は0回と、こうした言葉遣いも党のイメージに表れているのかもしれない。
○「大きな政府」の自民党
「経済政策がリベラル」という意見もある。
実際、アベノミクスの主要な政策の一つである金融緩和は、イギリス労働党やスペインの左翼政党「ポデモス」も掲げており、日本においてもマルクス経済学者の松尾匡立命館大教授も「左派こそ金融緩和を重視するべき」だと主張している。
首都圏の28歳男性会社員は世界的に見れば安倍政権は「リベラル」だという。
「前原代表の『All for All』が出て変わってきたと思うが、民主党政権時代の事業仕分けや、財政健全化を重視して増税を掲げるなど、民進党の方が緊縮的な印象が強い。自民党も家族など伝統的な価値観を重視しているとは思うが、介護保険など高齢者を社会で支える政策も実現しているし、野党がそれに代わる価値観を提示しているとも思えない。
非正規社員のような弱者救済の観点でも、大企業の正社員中心で構成される連合が支持母体にいる時点で限界がある」
また、前出の男子学生(20)も自民党の経済政策が小さな政府志向ではないと話す。
「働き方改革や管製賃上げなどで市場原理に介入し、長時間労働規制など労働者の権利を守る改革も実行している」
○日本に真のリベラル政党はない
これに対し、東京大学の井上達夫教授(法哲学)は日本に真のリベラル政党はない、という。
欧米の思想の流れでは、保守とリベラルの対立は、政治、経済、軍事外交の3側面に分けて考えられる。ただ、実際は経済と軍事外交面では混乱しており、日本においても、政治面が最も明確に分かれている。
自民党は、靖国神社公式参拝や選択的夫婦別姓反対、特定秘密保護法など、伝統保持や秩序維持のために市民的・政治的人権をある程度制限しようとしており、政治面において保守であることは明確だ。
若者に聞いても政治面で自民党が保守であることを否定する人はいない。それに不満を持っている若者も多い。ただ、若者にとってより重要なのは経済政策であり、安全保障に関してもある程度の「改革」の必要性は認めている。
「政治面は確かに自民党が保守だと思うけど、経済政策とか他の政策で判断してる」(前出の大学院生)
「女性活躍推進は不十分で、配偶者控除の見直しが十分に進まないなど、部分的な不満はもちろんある。一方で、安全保障に関しては現実的にある程度の強化が必要だろうし、安倍政権は外交も積極的に行うなど、そこまで保守的(タカ派)だとは思わない。それに反対ばかり掲げている野党の安保政策がリベラルだとも思わない」(前出の男性会社員)
これに対して井上さんは、日本のリベラルと称する勢力の「憲法9条を護持せよ」という護憲派は本来のリベラルの姿勢ではない、と指摘している。
「リベラリズムの根本原理は、対立する人々の公正な共生の枠組みを成している正義の理念にある。これは公正な政治的競争のルールたる立憲主義の尊重を要請する。
護憲派は改憲派を憲法破壊勢力と批判するが、護憲派も専守防衛・個別的自衛権の枠内なら自衛隊・安保を政治的に容認しており、戦力の保持行使を禁じた9条との矛盾を糊塗(こと)してきた。政治的ご都合主義で憲法を蹂躙(じゅうりん)してきた点では彼らも同罪だ。彼らが立憲主義を標榜(ひょうぼう)するなら、最低限、護憲的改憲(専守防衛・個別的自衛権の枠内で戦力保持行使を認める9条2項の明文改正)を主張すべきだ」(「読売新聞10月17日朝刊」より)
また、自民党についても「北朝鮮問題がこれほど緊迫化しているのに、安倍首相も9条2項温存の加憲案で戦略としての自衛隊の認知を回避しており、護憲派と同じく平和ボケ。国防を真剣に考えるのが保守だとしたら、安倍政権は保守の名に値しない」と批判している(「読売新聞」同より)。
○決して現状を肯定している訳ではない
20歳の男子学生は、そもそも今の若者にイデオロギー対立はなく、いかに改革志向であるかが重要だと話す。
「今の若者にイデオロギー対立を背景にした『保守』と『リベラル』の構図はなく、自民党の政策にも両方の政策が混ざっていて、欧米のようにわかりやすい対比軸はない。『保守』と『リベラル』を分けるものは、いかに日本を良くする改革的な個別政策を掲げているかという面で判断されるのではないか」
実際、30代以下の世代は他の世代と異なり、自民党の次に希望の党を支持し、「改革」志向を重視している。憲法改正に賛成する若者も多く、安倍首相が掲げる自衛隊を明記する憲法9条改正についても、全体では「反対」45%が「賛成」36%を上回っているが、18〜29歳のみが「賛成」49%が「反対」34%安倍政権による憲法改正を支持している結果も出ている(朝日新聞社が10月23、24日に実施した全国世論調査より)。
自民党支持の結果から、若者は「保守化」していると見られがちだが、若者から見れば、自民党は「改革派」であり、決して現状維持を望んでいる訳ではない。
立憲民主党の枝野幸男代表は選挙期間中のインタビューや街頭演説で自身のスタンスを「保守」、なかでも「リベラル保守」であると語り、東京工業大学の中島岳志教授は共産党を「保守」だと主張するなど(「緊急対談 衆院選で問われる日本政治の新しい対決軸、リベラル陣営のリアリズムとは(山下芳生×中島岳志)」より)、従来の「リベラル」政党が「リベラル」のイメージから脱しようとする傾向にあるが、若年層の支持を得るには、いかに日本を変えていくかをより強く提示していく必要があるだろう。
(文:室橋祐貴)