最近の注目情報詳細(2013年8月)
1.国と地方のあり方を問う 道州制で豊かになるのか
(2013年7月26日 福井新聞)
東京一極集中により、富や産業、人的資源が偏在化。地方は疲弊するばかりだ。それでも、古里に愛着を持ち、住みよい暮らしを希求する住民がいる。人口減や少子高齢化による地域コミュニティーの衰退に歯止めを掛けようと頑張る団塊世代もいる。持続性のある地域づくりは「強い日本」を取り戻すためにも最重要課題であるはずだ。
しかし、議論する絶好の機会でもあった参院選は、地方再生をめぐる具体的な方法論もなかった。その一つが「道州制」の問題である。国と地方の関係を根本から見直し、分権化による地方の自立をどう実現するか、重要なテーマだ。
福井新聞は、選挙期間中もこの問題を取り上げ、これまでも制度の問題点を当欄で指摘してきた。議論すべき課題は多い。
道州制に前向きな自民、公明の両党は4月に道州制推進基本法案をまとめたものの、党内や地方の反発もあり、選挙を控えて法案提出を先送りした。秋の臨時国会に焦点が移る。
自民党は推進の意義を「中央集権体制を改め、地方分権型国家を構築する」と強調するが、要は「行財政の効率化」が主眼の文脈に読み取れる。
政府の地方制度調査会は2006年、道州制導入の提言に当たって「国の役割は国家的な課題に重点化し、内政は広く自治体が担う」として、都道府県を10程度に再編する3種類の区割り案を発表した。安倍政権になって議論が再燃。日本維新の会やみんなの党が推進、共産、社民党が「住民サービスの低下」や「地域の衰退」を招くとして反対の立場だ。
思惑が絡む全国知事会は賛否の判断を先送りした。本県の西川知事は「省庁の再編を含めた中央政府の改革など、地方の自主性・自立性を高めるための基本原則がまず論じられなければならない」として、十分な国民議論もない「導入ありき」論を「議論の入り口で反対すべきもの」と真っ向批判している。
地域間格差の拡大や住民自治、地域経済の弱体化、さらに道州制による地方分権の実効性に疑念を抱くのは本県だけではない。生き残りをかける大都市に吸引され、地域衰退が加速していくことへの危機感は強い。
距離的、経済的にも本県と近い関西圏。大阪府は「グローバル化が進む中で道州制は待ったなしの課題」とするが、東京一極集中の「関西版」を望んでいるなら軽薄な発想だ。
明治以降、基礎自治体の合併と事業統合が繰り返され、そのたびに地域は大切な伝統や風習、文化をも失った。本県は平成の大合併で村が消え市町が半減した。新たな地域づくりより行財政効率が優先され、住民サービスが低下したのは明らかだ。
グローバル化は、経済や国際交流を促進させる一方で、格差と貧困を加速させてきた。国民の生活や社会の実態から離れた観念的な枠組みの道州制も、その延長線上にないだろうか。
人口の少ない地方への公共投資を「無駄」と言い放ち、新幹線を「無用」と切り捨てる。こんなメディアが増えてきた。主眼は大都市への再投資。地方への視点は実に希薄だ。常に地方の視点で地域住民に寄り添い、福井新聞は4万号を重ねた。現場主義を貫き、日本の将来像をこの福井から描く責務がある。
2.府の道州制研究会発足 「京滋合併」是非も議論 京都
(2013年8月7日 MSN産経)
道州制について府と府下市町村の見解をまとめようと、府は6日、山田啓二知事や市長会長、町村会長など自治体のトップ、有識者でつくる研究会を発足させた。山田知事が打ち出した「京滋合併」の是非などもテーマになる見通し。
初会合では、同志社大の新川達郎教授がこれまでの道州制をめぐる議論を整理。新川教授は、道州制のメリットとして、国から地方への分権や行政の合理化が進むと説明。一方、デメリットとして、経済効果が少ないことや、州都に権限が集中したり、地域間の格差をさらに広げたりする懸念があるとした。
山田知事が打ち出した府と滋賀県とを合併する「京滋合併」については、「中型道州制については、経済圏の問題などから、ここ10年で議論の勢いがなくなっている」と紹介した。
海外では数百万人の単位で州を作っている国が多いのに対し、日本では数千万人単位で検討されていることや、北海道が特区として道州制を実験的に進めている取り組みは「国と道庁の二重行政が続いており、成果があまり上がっていない」などとも指摘した。
次回会合で、府から市町村への事務移譲についてのシミュレーション結果を公表する。年内に中間案をまとめる方針という。
(栗井裕美子)
3.大阪都効果「年1000億円」 知事・市長案公表
(2013年8月10日 読売新聞)
大阪市の橋下徹市長と大阪府の松井一郎知事は9日、府・市を「大阪都」と5か7の特別区に再編する「大阪都構想」の制度設計案を発表した。都と特別区の事務分担や財政調整制度、市の財産・債務の振り分けといった全体像を初めて提示するとともに、初期投資コストが最大640億円、歳出削減効果が最大年約1000億円とする都制移行の財政試算を明らかにした。府・市両議会での承認を経たうえで、2014年秋にも住民投票で是非を問い、15年4月の実現を目指す。
案では、成長戦略や都市計画、交通基盤整備といった広域行政を都に一元化。新たに公選区長が行政を担う特別区は、東京23区より多くの権限を持つ中核市並みとし、住民に身近な行政サービスに集中する。
特別区の間の税収格差を是正する財政調整制度を導入するほか、組織再編で府市の総職員2万9898人(12年4月現在)は今後20年間で1198人〜4258人削減できるとする。
市の解体、分割に伴って、市が保有する土地や建物、公営企業など全会計で約12兆円(11年度決算など)に相当する市有財産は、都と各特別区に配分される。市の借金にあたる市債は一般会計で約2兆8200億円(11年度決算)あり、都が引き継ぐ。
都制移行の初期投資コストを庁舎改修などで最大640億円と見込んだが、財源は示していない。
一方、当初、松井知事が年4000億円と掲げた「都構想効果」は、最大約1000億円にとどまったうえ、府市の事業再編や市政改革の効果額計706億円までが含まれ、市議会からは「都構想とは関係ない」と批判が上がる。
橋下市長は同日、日本維新の会国会議員団に「都構想推進チーム」を設ける方針を示した。市議会では自民党が都構想に反対しているが、「都構想は道州制につながる」と述べ、道州制導入を目指す自民党中央と連携し、都構想を推進させる考えを明らかにした。
≪解説≫
大阪府・市を再編する「大阪都構想」の制度設計を描いた知事・市長案が9日まとまったことで、都構想の是非を巡る議論の土台がようやく固まった。
最大の焦点は、都構想の実現でどんなメリットがあるかだ。知事・市長案は、最大年約1000億円に上る「都構想効果」を初めて数字で示した。
ただ、内訳を見ると、都構想とは直接関係がない府市の事業再編や、住民サービスをカットする市政改革による年706億円が7割を占める。直接の効果は最大年270億円にとどまる。「水増し」批判は避けられない。松井一郎知事が当初掲げた4000億円の目標にも遠く及ばない。
橋下徹市長が「この財政効果はものすごい改革だ」と強調しても、反対派は簡単には納得しないだろう。
元々、都構想の出発点は、こうした行財政改革というよりは、むしろ、統治機構改革だった。
予算も権限も似通った府と市が長年、競合し、ばらばらだったことが、大阪の地盤沈下につながったとの見方がある。府・市ふたつの司令塔を一つにする都構想に大阪再生の可能性を期待する声が、大阪維新の会を躍進させてきたといえる。
都で実現する「ワン大阪」で、どうやって大阪を浮上させるのか。知事・市長案は、こうした期待に応えていない。
飛行機の詳細な設計図だけではなく、「どこに向かって飛ぶのか」を示すべきだ。
(社会部 村尾卓志)
4.道州制:法案提出に黄信号 推進の維新、参院選で失速
(2013年8月17日 毎日新聞)
都道府県を再編して国の権限や財源を地方に移譲する「道州制」導入の議論が失速し、与党が目指してきた秋の臨時国会での法案提出に黄信号がともっている。導入推進の急先鋒(せんぽう)だった日本維新の会が参院選で伸び悩んだうえ、消費増税の最終判断など優先課題が目白押しのためだ。今春、維新の台頭とともに盛り上がった道州制の導入論議だが、先行きは見通せなくなっている。
「あまりにも中身が薄っぺらだ」。全国知事会を代表し、自民党道州制推進本部の今村雅弘本部長と今月6日に面会した上田清司埼玉県知事は、記者団の前でこう訴え、自民党の姿勢に不満をぶちまけた。
道州制は全国を10程度の道と州に再編して、国が握ってきた権限と財源を移し、行政を効率化させようという構想。自民党は昨年末の衆院選公約で「導入を目指す」と明記し、自民、公明、維新、みんなの4党が導入に向けた法案化作業に着手した。
自公両党が今年4月、道州制の導入に向けた大枠となる「道州制推進基本法案」の骨子をまとめると、維新、みんなを加えた4党で共同提案を目指す動きに発展。安倍政権が将来の憲法改正をにらんで方向性が同じ維新、みんなと協力関係を築くうえで、道州制論議を連携の「糸口」にしたい思惑も絡んだ。
だが、自民党内では7月の参院選を前に、道州制に反対する地方団体の意向をくんだ反発の声が噴出。維新の橋下徹・共同代表(大阪市長)による従軍慰安婦に関する一連の発言で維新と距離を置かざるをえなくなり、道州制導入の機運は一気にしぼんだ。維新とみんなは党の主張を参院選でアピールする狙いもあり、先の通常国会に法案を提出したが、結局、与党抜きの見切り発車だった。
自民党道州制推進本部の幹部は「何とか秋の臨時国会に与党法案を提出したい」と焦りを募らせる。基本法案成立から関連法整備まで計5年としていた年限を法案の骨子から落とし、党内反対派の議論への参加を促すことを検討している。
ただ、消費増税や成長戦略などで、秋の臨時国会は日程的に窮屈なのが実態で、別の自民党幹部は「参院は新人議員も増えて説明が必要な状況だ。時間的余裕はない」と話している。
【中島和哉】